0100消えた上半身!足だけ少年の苦難

バニラ「これは困ったな…。」 ぼくは途方に暮れていた。
作業部屋にいるぼくは、ヘソから下だけの下半身になって床に転がっていた。
ことの顛末はこうだ。


ぼくは、無限に物が入るペンダントを作ろうとしていた。
グミがいくらでも入る入れ物を作ったら、何かと便利だろうと思ったんだ。
時空を圧縮させる難しい作業だ。
でもぼくには自信があった。
ぼくの集中力は冴え渡り、作業は順調に進んでいた。
しかし、その時…。
バニラ「は、は、は。」 まずい。
バニラ「くしゅん。」 ぼくは持っていたピンセットの先を、コツンと時空圧縮コアに当ててしまった。
そんなちょっとした衝撃でも不安定になったペンダントは突然強く光った。
ぼくは意識を失った。

不死身状態にも関わらず、ぼくは気絶してしまったらしい。
目覚めたのは、暗闇の中だった。
それに、やけに静かだ。
明かりはどこだろう。
起きあがろうとするけど、腕が動かない。
というか、腕の感覚自体がない。
腕だけではなく、胸や頭の感覚もないし、言葉も発音できない。
ぼく自信が息をしている感覚すらないみたいだ。
おぼろげに自分の置かれた状況に思い当たり、ぼくは戦慄を覚えた。

ペンダントが光った瞬間と、受けた衝撃を覚えていた。
おそらく、不安定になったペンダントは、小型の時空爆弾と化してしまったのだろう。
小型とは言え、時空爆弾の威力は凄まじい。
固い鉄でも一瞬で塵と化してしまう。
ぼくの体はひとたまりもなく、ほとんどが塵になって飛び散ってしまったのだろう。
感覚から判断するに、ぼくの目や耳、心臓や脳も失われたに違いない。
バニラ「これは困ったな…。」


ぼくは足を動かしてみる。
oto1{ずり。} 地面をこする感覚がある。
よかった、足は残っているようだ。
何も見えないが、感覚的にぼくの体はヘソから下だけの状態になっているらしい。
時空爆弾は中心から一定距離までの球の内側ものを徹底的に破壊する。
その半径がたまたま小さかったため、蒸発したのは上半身だけで済んだみたいだ。

「元通りグミ」を食べなければ。
しかし、気がかりなのは今のぼくの体に胃は残っているだろうか、ということだ。
まずはそれを調べなければならない。
ぼくは2本の足をばたつかせて、なんとか床にあぐらの形で安定した。
バニラ「ブーツを脱がないと。」 左足をおもいっきり折り曲げて、右足のふともものブーツの吐き口をこする。
ふとももにピッタリとフィットしているブーツはなかなか脱げてくれない。
ぼくは何度もひっくり返りながら、なんとか右だけ素足になった。

次にぼくは、あぐらをかいたまま、残されたわずかな下腹部を前に傾け、切断面があると思われるところをできるだけ下に向けた。
そのままはだしの右足を切断面にあて、探ろうとしてみる。
切断面の近くに、やわらかい感触があった。
おそらく腸が何束か飛び出しているのだろう。
下腹部の断面は思ったよりも前面が大きく開いているらしい。
おかげで、ぎりぎり右足が届いて、お腹の中の様子を探ることができた。
oto1{ぐちゃ。ぬちゃ。} ミンチとホルモンを混ぜたような感触の生肉が、ぼくの右足の指の間に入ってくる。
そしてその生肉はぼくの一部であるから、ちゃんと足にさわられている感覚があった。

ぼくのお腹に、覚えのある感覚があった。
食べ過ぎたときに重たくなる位置の内臓を、今ぼくの右足がさわっている。
これが胃で間違いないだろう。
小さいけど、一応胃は残っていた!
とりあえずぼくは一息をつくことができた。
(実際には息をつくための口も、肺もなかったけど)。

ぼくはお尻だけでバランスをとると、両足を上に思い切ってあげ、反動で振り下ろすことで、しゃがんでいる状態になった。
そのままゆっくりと膝をのばし、立ち上がる。
下半身だけの状態で、ゆっくりと歩く。
oto1{コツ、ぺちゃ、コツ、ぺちゃ。} 片足だけブーツを履いているから、足跡がへんだ。
いつも使っている作業部屋だから、途中にぶつかったテーブルなどの感覚から自分がどこにいるかを割り出すことができた。
ぼくは作業台と思わしき位置まで動き、右足を上げて机の上をまさぐった。
すぐにカバンを見つけることができた。

足の指を使って、グミを取り出す。
問題は、どのグミが元通りグミかということだ。
今のぼくには目も鼻もないから、色やにおいで判断ができない。
こうなったら、何でもいいから食べてみるしかない。
右足の指でつまんだグミを、切断面の中の臓器に置く。
oto1{ぐにゃん。} ぼくの体が、重力に負けてゆがみ始めた。
バニラ「ちがう。これは粘土化グミだ。」 ぼくは、粘土のようになった足をぐにゃっとのばして、次のグミを胃に置いた。
粘土のようになっていたぼくの体が、もとの固体にもどる。
バニラ「やった!これだ。」 ぼくはついに元通りグミを食べることができた。 バニラ「む、この感覚は…今回はあっちのパターンか。」 ぼくはなんとなく察した。

下半身だけのぼくの体は今、まっすぐ2本の足で立っている。
そして、へその上には大きな口をあけて、内臓などが覗いている。
その内臓が、もぞもぞと動き出した。
次の瞬間、内臓の中から2本の手が飛び出してきた。
2本の手は、切断面のふちの破れた皮膚をつかむと、力を入れて反対側を引っ張り出そうとした。
また内臓がもぞもぞ動く。
oto1{ずぼっ。} 次に出てきたのは、ぼくの頭だった。
ただし、ぼくの顔が向いているのは、お尻側の方向だった。

ぼくは切断面をつかんだ腕にそのまま力を入れて、
oto1{ずるずるずる。} まるで風呂から出ようとしている人のように、首から下の上半身を引きずりだした。
でも、このままでは上半身と下半身があべこべだ。
そして手がつかんでいる部分を少し移動させて、腕がナナメに腰の切断面をつかむようにした。
oto1{ごりっ!} 思い切って腕を引っ張ると、上半身が180度回転して、ぼくの上半身は正しい向きに戻った。
同時に、脊椎がつながった感覚があった。
まだ腰の裂け目はふさがっておらず、腸やらなんやらがぶら下がっている。
シャツをズボンの中にいれるような動作で内臓をしまうと、ぼくの皮膚は傷一つない状態に修復された。
通常、体がバラバラになった時には、そのバラバラになった肉片がくっつきあって元通りになることが多い。
でも、今回のように消滅してしまったり、限界を超えて細かくなりすぎてしまった場合は、このように新しい体が「生えて」くる時がある。
肌がつるつるになったりするので、ぼくはこのパターンは結構好きだ。

ぼくは体の復元が終わった時、へそから下には服を着ていて、上半身の服は裸だった。
しかしすぐさま服の破れ目から布地が広がっていき、元通りの服に修復された。
最後にぼくは、床の上に放り出されたままの右のブーツを履きなおした。

作業台の方を見ると、ペンダントに吹き飛ばされたのだろう、近くにある物が綺麗に球形に切り取られていた。
あとで直さないとなあ…。

バニラ「やれやれ。」 今日はえらい目に遭った。
今回は大丈夫だったが、胃が残っていない場合はどうなっただろう。
例えば、足首だけが残っていたらどうなっていたか。
もしくは、骨だけしか残っていなかったらどうなっていたか。
考えただけでもぞっとする。
ぼくはぶるっと体を震わせた。

不意な再生が必要な時に備えて、できるだけ早いうちにいい案を考えなければならない、とぼくは考えた。
とりあえず、無限収納ペンダントの開発は当面、見送りだ。

<おしまい>